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本研究は、NHKと民放の夜のテレビニュース6番組における「街の声」を対象に、男性優位な制作現場がいかなるジェンダー傾向を画面上に再現しているのかを、2015年と2025年の通時的比較から明らかにすることを目的とした。「自然なもの」として受容されてきた「街の声」を、制作者の意図が投影された「例示」と捉え、2 ,600名以上のサンプルをコーディングし、量的および質的分析を行った。
分析の結果、過去10年間において出演者の男女比には劇的な改善は見られず、男性約6割、女性約4割という構成が維持されていた。質的分析では、まず男性がニューストピックを語る「代表者」の地位を独占し続けている実態が明らかとなった。また、語りの主体性における非対称性も顕著であり、女性が「ケア役割」という属性に包摂されて描かれるのに対し、男性は子連れであっても自己を主語として語る「一個の主体」として立ち現れる傾向が確認された。またこの特徴は、大人を随伴した子どもの発話が、「お世話役の母」と「遊び相手の父」という役割分担を能動的に補強する形でも見られた。そして、2015年と比較し、2025年では「感情労働」を担う「街の声」が増加し、同時に感情労働の外部化が進んだ領域で女性の出現範囲が拡大していた。
本分析は、テレビ業界の「オトコ・ジャーナリズム」規範がもたらす構造的バイアスを浮き彫りにした。またジェンダーバイアスは、子どもの発話や感情労働の外部化という手法で、より文脈の中へと巧妙に隠蔽され、視聴者が既存の規範を無意識に内面化しやすい装置へと深化していた。画面上の数値的な是正に留まらず、誰に「社会を代表して語る権利」を付与し、誰を「一個の主体」として描くのかという、制作側の価値観そのものを内省的に問い直すことが不可欠である。 |